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全体主義について考える3(まとめ)【ハンナアレント著:悪と全体主義より】

 

 

本日は全体主義について論じる最終回ということで、ハンナアレント氏の著書「悪と全体主義」の総論と全体的な感想を述べていきたいと思います。
この著書は私自身ドイツについて学ぶ中で大学1年次に読んだ作品だったため、再度読み直して学びの多い作品だと感じました。

では「全体主義について考える」まとめに入ります。

 

 

「異分子排除のメカニズム」と「作り出された世界観」

ナチスが戦時中、国民国家の統合を図るために利用したのが異分子排除のメカニズムです。このメカニズムはざっくり言うと、強烈な共通の敵が現れると、それまで仲間意識の希薄だった人々の間に強い連帯感が生まれる現象です。

似た現象は日常でもよく感じることも多いのではないでしょうか?
「敵」の規模感や解釈は異なりますが、オリンピックやW杯など代表選手が国の誇りをかけて戦う際には、なんだか国全体に強い連帯感や一体感が生まれます。これらの催しでは「異分子排除」がなされているわけではないのであくまでも似た感覚です。

 



またナチスユダヤ人を異分子のターゲットとする上で、大衆が欲する壮大な「世界観」を提供しました。その世界観とは資本を持つユダヤ人がドイツないしは世界を操っているという陰謀論です。当時経済的に困窮していたドイツ国民にとって、諸悪の根源のような明確な敵が現れたことは国民意識を強める大きな要因となりました。
このようなに安直な安心材料やイデオロギーは大衆を動かす世界観へと変貌し、のちの全体主義へとつながっていきます。

 

 

黒幕はいたって「普通」の人

ナチスホロコーストを語る上で欠かせないのがアドルフ・アイヒマンという人物です。彼はナチスにおける親衛隊の将校を務めたいた人物であり、アウシュビッツ強制収容所へのユダヤ人移送の指揮・虐殺に関わったと言われています。
戦後、アイヒマンは長い逃亡生活を経てエルサレムにて裁判にかけられることになります。その際の記録についてアレントは詳細に記しているのでぜひ一読していただきたいのですが、この裁判で驚きなのがアイヒマンという人物があまりに一般的で従順な性格であったことです。

 

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普通といっても大虐殺を行ったことに間違いはありません。しかしアイヒマンの頭には一切の罪悪感や意思などが存在せず、思考停止した状態でナチスの指令に従っていただけだというのです。

ここで重要なのはアイヒマンがどういった人物であったかという点ではなく、強大な組織や権威になすがままに流され、物事の善悪の判断を思考を止めてしまうこと・疑いを止めてしまうことの危険性です。

 

会社や学校など私たちは様々なコミュニティに属していますが、そのコミュニティの権威による指示を思考停止でこなす経験を一度はしたことがあると思います。
何も考えないことは楽でいいですが、思考停止の状態に慣れてしまうことは最も危惧すべきことです。アイヒマンが生きていた時代において「思考停止」は重大な戦争犯罪を引き起こす大きなきっかけとなってしまったのですから、コミュニティの構成員として自立した思考を持ち続けることは個人としても組織としても必要なことですね。

 

 

全体主義に立ち向かう

ここまで全体主義の恐ろしさについて触れてきましたが、結局私たちはどうやって立ち向かっていけばよいのでしょうか。

アレント全体主義の急所として、「複数性に耐えること」を挙げています。これは様々な情報や意見が飛び交う現代社会において、物事を他者の視点で見ること・大衆と同じものを見過ぎないように気をつけることです。

 

全体主義は二項対立を上手く活用し、ナチスにおけるユダヤ人がそうだったように絶対的な悪を設定します。これにより複数性を破壊し、より単純明快な道へと人々を誘うことで思考停止を生み出すのです。アレントは著書でアイヒマンや思考停止の状態を「無思想性」と表現しました。

 

ラインでつながっている群衆の空中写真 - sns ストックフォトと画像

 

しかし複雑性を受け入れるのは難しいことです。
自分が苦手な人の立場になって考えたり、あるいはまったく違う価値観に触れたりする必要があり、とても疲れることが多くなるでしょう。やはり人間は自分と似た意見や価値観を持つ人と一緒にいる方が楽だし、過ごしやすいというのは確かです。

それでもなお複数性に耐え、わかりやすさの罠にはまってはならないというのがアレントのメッセージです。
わかりにくくても、受け入れがたくともそのメッセージを反芻(何度も考え直す)ことが必要だということですね。

 

 

3回にかけて全体主義について論じてきましたが、内容を見て特に日本人にとってその国民性を考えると、学ぶべきことが多い著書だと感じました。

次のテーマは何にしようか考え中ですが、近いうちに投稿しようと思います!

 

当記事の参考文献

 

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