本好きのつぶやき

読書に勤しむ大学生の日常

分断のはじまり①【橘玲著:上級国民/下級国民】

「上級国民」というワードは2019年春に飯塚幸三という男が起こした事件にて一躍流行した言葉である。ニュアンス的には元官僚で勲章持ちの人間は、権力によって罪さえも揉み消すことができてしまうのだという使われ方だった。まさにその流行語大賞にもノミネートされたことに関連して出版されたのが、今回紹介する1冊である。

 

 

日本経済停滞

序章は経済的な視点で話が進む。平成で起きたこととしてデータが示すのは「日本がどんどん貧乏くさくなった」ということだった。1人あたりGDPは2001年(世界2位)→2018年(世界26位)と、すっかり落ちぶれてしまった。しかしこのことは様々なメディアで叫ばれていることだし、承知の方が大半だろう。


筆者が注目したのは労働市場。1980年から2000年代にかけて正社員の割合はどうなったのか。ちなみに、この期間に日本はバブル前夜→バブル期→バブル崩壊を経験することとなる。実際のところ、正社員の比率は就業者全体で見ると一定をキープしており、小泉政治によるネオリベ改革・バブル崩壊によるリストラの影響は思いのほかなかったのでは?と思えてしまうデータだ。しかし見逃してはいけないのが非正規雇用者の増加割合である。非正規雇用の割合は1982年の4%から2007年の12%へと約3倍となっていたのだ。


正規雇用の増加

なぜ非正規雇用者の割合が増大したのか。その中でも最も大きな要因は14%も占めていた自営業者が7%に減少したことであると筆者は分析する。半数にも減った元自営業者達が非正規雇用に流れていったのではないか。確かに当時倒産した自営業者として、就職難の中非正規雇用しか選択肢がなかったのは容易に想像がつく。しかもバブル前期の日本における自営業者は先進国の中でも突出していただけあって、彼らの働き口が非正規に流れてしまったことは自然な流れである。実際当時は農業や飲食・町工場など自営の仕事が次々に廃業し、正規・非正規の会社員が増えていったのだろう。

 

雇用破壊が起きた場所

俗に言われていた「雇用破壊により正社員が減少し、非正規雇用者が増えた」とは一体どこで起きたのか。まさにそれは20代の若い男性の中で起きたのが真実だという。つまり平成日本における労働市場において、とりわけ若者の男性の雇用を破壊することで、中高年(団塊の世代)の雇用が守られたというわけだ。このときにあふれ出た若者が現代社会で大きな問題となっている引きこもりやNEET、また就職氷河期世代を経験したと言われる人々だ。確かにデータを基に考えればこの結論以外あり得ないと言わざるを得ない。

社員を守るという日本的会社経営は一見良さそうに見えるが、やはり既得権や保守層以外へのダメージが相当大きいシステムであると改めて感じる。
また、バブル崩壊後バブル期に採用した大量の雇用をどうするかといった問題もあったようだ。日本的経営において、一度雇用した正社員はよほどのことがない限り、解雇することができない。これが伝統的な労働市場流動性を阻害する要因と呼べるが、さらにこのシステムがもたらすのは大規模な人件費の削減である。給料上がらない問題の布石はすでにこのときから撒かれていたのである。

 

日本経済低迷の理由

筆者はさらに日本の労働市場流動性の低さこそ、経済低迷に寄与しているのではないかと述べる。この流動性が低いと給料が高く待遇が良い同業他社へ転職が難しくなる。たまたま入った新卒でしばらくの給料が確定してしまったり、その会社の業績がどうなるかもわからない、いわば運任せ就職になってしまう可能性もあると指摘する。

このように日本的会社経営の負の側面を述べてきたが、このシステムはしばしばアメリカと比較される。すぐにでもクビを切られるアメリカと比べれば日本の方がマシだという意見もあるだろうが、長期的な目線を持ったとき、その後の経済発展の可能性を加味すればどちらを選ぶかと言われればアメリカ型であろう。日本も今後は労働市場流動性がIT推進や働き方の変容によって、徐々にアメリカ型に変容していく兆しが見えてきている。

 

分断はこのように始まった(感想)

バブル期の経済動乱から、日本式経営システムの負の側面が露わになった。また非正規雇用者の増加はその後世代の大きな経済格差を作り出す一因となり、いわゆる上級国民と下級国民という大きな分断が起きるきっかけは、ずっと前に存在していたことを実感した。

現代社会における問題はこの分断だけでなく、言及した上級国民もまた貧しくなっていること。沈みかけている船の椅子取り合戦となっている現状の日本経済では、分断よりかは経済を上向かせるための方策(労働市場流動性向上や日本的経営からの部分的脱却)を進めていく必要がある。改めて本著はなかなかキャッチーなタイトルで、その実目にしたくない現実を突きつけるような内容だった。

 

 

 

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